パノラマミラーの面白い性質については、ざっと理解できました。
今回は、実際に映蔵「WIDE-70」を使って、先に理解した性質を押さえながら、高画質パノラマを撮影する方法を確認していきます。
1.なにより大事なミラーのクリーニング
面白いことに、パノラマミラーでは、どこの距離の被写体にピントを合わせようとも、必ずミラー表面にもピントが合います。
つまり、被写体にピントが合う部分に関しては、ミラー表面の汚れ、傷、指紋も全てピントばっちりで写ってしまいます。
高画質で撮影するには、なによりもミラーのクリーニングが必須、なのですね。
・・・・・ミラーの汚れを防止するためにアクリルカバーがあるタイプもありますが、実はアクリルの表面にもピントが合います! なので、高画質を得るにはアクリルカバーはまったくメリットはない、と考えてよいでしょう。
▲光学レンズやセンサーと同様、無水アルコール+シルボン紙でクリーニングします。
2.カメラのセット
パノラマミラーを付けたカメラは、真上に向けることで、水平方向を写すことができるようになります。このため、三脚に付けるL型アングルがあれば便利。また、ちゃんと水平を出す必要もありますから、水準器もあった方がよいです。
▲L型アングルを使って、カメラを上向きにセットすることで、水平360°がワンショットで写せます。
▲水準器を使って、ミラーを正しく水平にセットします。カメラやレンズの水平よりも、ミラー本体で合わせたほうがよい(はず)です。
水準器はミラーに付属していません。
3.ピントはどこに合わせるか?
前に整理した理屈どおりで、ピント面は、だいたいミラーを頂点とした円錐形になります。
なので、どの距離にある被写体にピントを合わせるか? ではなくて、どの「高さ」の被写体にピントを合わせるか? と考えるのが基本です。
しかし単純には、ファインダーを覗きながら、ミラーに写る被写体の像を見て、もっともシャープに見える位置にマスターレンズのピントを合わせればよい、のです。ただ、あまりに細
下の写真は、マスターレンズの絞りを開放(F2)にした状態の比較写真です。左がミラーの中心寄りにピントを合わせたもの。右がミラーの外周寄りにピントを合わせたものです。
拡大部分は共に、ミラー画面の中で最もピントが合っている部分を選んでいます。
こうしてみると、ミラーの外周近くにピントを合わそうとしても、かなり無理があることがわかります。これが、「非点収差」「球面収差」の影響と考えてよいのでしょう。
ミラーの中心部は、曲率が球に近いために、こうした収差が少なくなりますので、ピントが合いやすくなるようです。
ただ、後述するように、実際の撮影ではマスターレンズの絞りを十分絞りますから、だいたいミラーの中心と外周の間くらいに合わせる、というアバウトなやり方で実用上は十分なようです。
▲左はミラーの中心寄りにピントを合わせたもの。右はミラーの外周寄りにピントを合わせたものです。
4.絞ればよい、のだけど・・・。
パノラマミラーの被写界深度を深くして、上から下までの被写体にピントを合わせるには、マスターレンズの絞りをできるだけ絞る、のが基本になります。
しかしよく知られているよう、絞りを絞りすぎると「回折」という現象が大きく影響するようになり、画質が低下します。
そうはいっても、画面の上から下までにピントを合わせることとの兼ね合いもあります。
ほどほどが一番は事実ですが、一番絞ったほうが安心ということもあるでしょう。
▲左はF8、右はF22。絞りすぎた右の方がほんの少しぼんやりして見えます。
▲左はF8、右はF22。絞り足りない左は、外周部(高い位置にある被写体)はボケたままです。
▲左はF8、右はF22。絞り足りない左は、内周部(低い位置にある被写体)も少しボケています。この部分は、最終的に「画像を伸ばす」ことになりますから、少しの差が大きく現れます。
6.だいたい計算通り
下の写真は、共にF22に絞ったもの。左が内周に近い側にピントを合わせたもの、右が外周に近い側にピントを合わせたものです。
小さな差ではありますが、ピント位置に近い方がシャープに写るという、当たり前の事実が確認できます。
▲左は内周側、右は外周側にピントを合わています。絞りは共にF22。外周側のピントは、右側の写真のほうがよいです。
▲左は内周側、右は外周側にピントを合わています。絞りは共にF22。内周側のピントは、左側の写真の方がよいです。
●結論
パノラマミラーを使って高画質で写すには、下記の設定に注意するのが基本です。
- ピントはファインダーを覗きながら、ミラー頂点~底面の間くらいに合わせる。(ミラーの焦点距離のやや奥に相当。)
- 絞りはできるだけ絞る。
●ちなみに・・・
パノラマミラーでは、ワンショットで360°全周を撮影します。このため、画素数が多いカメラのほうがよい、と考えてしまいがちです。しかし現実的にはミラー自体の工作精度やゴミ・ホコリなどの問題と、さらには原理的な問題からくるピントの限界があり、極端な高画素数撮影は意味がないように思います。
実用的には、600万画素もあれば十分すぎるくらいで、これ以上は必要ないかな、というのが実感です。
さらに被写界深度を稼ぐ効果を考えると、フルサイズのデジタル一眼レフなどセンサーサイズを大きくするよりも、コンパクトデジカメと組み合わせて手軽に撮影する方が向いているようにも感じます。
・・・・・今回はここまで。