このwebサイトは、2012年に「ちいでんのVRパノラマ」というタイトルで始めました。「ちいでん」は社名である「ちいさな伝記」の略で、当時よくパノラマVRの仕事をさせて頂いていたアマナイメージズの吉本さんが酒の席で、「ちいさな伝記なら略して”ちいでん”ですね」、とおっしゃったのがきっかけです。

私がパノラマVRに関心を持った2009年ころからこのサイトを始めるまで、つまり「ちいさな伝記株式会社」を設立するまでということですが、パノラマVRの情報は「写真道場」のwebサイトで公開していました。当時はスマホよりガラケー、もちろんGoogleストリートビューの存在すら無かった時代。なので当然、360度全景を写すパノラマVRはかなりコアでマニアな技術でして、日本語のweb上には網羅的な情報は皆無といっていい状態でした。もちろん書籍もありません。積極的に教えてくださる方もいません。 情報量の多さでいうと、京都の二宮さんが運営していた「panoramania」 のwebサイトが一番でしたが、内容は断片的で初心者にとって決してとっつきやすいものではありませんでした。

が、このフォーラムで繋がることができた神戸の山道さんの案内でステッチ作業の第一難関を突破できたことは、その出会いを含めて望外の喜びになりました。そしてこれが私のブレークスルーになり、以降、自分自身の勉強も兼ねて、調べて実験してその結果をまとめてwebで公開する、ということをかなりマメに2年くらい続けたでしょうか。部分的な知識の羅列ではなくパノラマVRの全体像がわかるようにする、実際に試したことしか書かない、出し惜しみはしない、という方針もあって、アクセス数は伸び、多くの仕事に結びつきました。中でも一番大きかったのが、先に書いたアマナ・イメージズの吉本さんからのご依頼で、パノラマブームの先駆けともなる仕事に携わらせていただきました。本当にいまでもワクワクする仕事が多かったです。

オーサリングは二日連続で開催された、よしみカメラの山崎さんによるkrpano講習会で開眼したのです。この会は染瀬さんがパノラマ仲間に声を掛けてくださって、新宿の彼のご自宅で行われました。谷口さん、静谷さん、岩本さんら、錚々たる人が参加していました。インターフェースのないアプリ のドロップレットに画像データを投げ込んだ後、自分でしこしこコーディングしていく、という作業は自分自身が想像していた以上に、ツボにはまりました。プログラムは高専時代にフォートランを少しいじったくらいの経験はありますが、性に合ったのでしょう。

その後「パノラマ技術を教えます」というセミナーをwebで告知したら、まことに驚いたことに全国から多種多様な業種の方々がお越しになられました。今思えば、ずいぶんな半可通が教えていたセミナーなのですが、これで仕事を始められて相当に成功された方々がいらっしゃいます。私自身も多くを学ばせていただきました。そして書籍は、秀和システムの山内さんが『この一冊ですべてわかる!360度VRパノラマ制作パーフェクトガイド』と、『これからはじめるバーチャルツアー Panotour Pro 2 & krpano完全入門』を出版してくださいました。重版はかかりませんでしたが、特に前者は本邦初のパノラマVRの書籍として、かなり注目を集めたことは確かです。

そして今、思いつくままに。パノラマ撮影は、自動車、航空機、電機メーカーのショールーム、スポーツジム、住宅展示場、化粧品や衣料品など有名ブランドの店舗、伊那の桜、アイドルの部屋などなどを撮りました。どれもこれも大手、有名企業ばかり・・。安倍元首相も登壇したニコニコ超会議は、知人のフォトグラファーにも手伝ってもらって大々的に撮影しました。昨年の「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展」は、知人からの奇跡的な依頼で記録パノラマを撮影したのです。全てにおいて、実に運がよかった。

屋久島にも中国にも、カナダにも行きました。スカイツリーや新聞社の新築ビルのてっぺんにも登りました。遺跡発掘、国際協力として緑化に取り組んでいる方とのやりとりもありました。福島第一原子力発電所の廃炉作業にも少しだけ関わらせていただきました。航空パノラマを使ったハザードパノラマの制作ではGISの勉強もしましたし、地域観光のパノラマは360ムービーも含めたコーディングをしました。高速道路の保守メンテでは、自動車に載せるパノラマカメラの治具制作などにも関わらせていただいたり・・とにかくやることなすこと初めてのことばかりで、まあ面白いのなんの。

そして「ちいでんのVRパノラマ」を始めてから10年を超えました。撮影やオーサリングのノウハウや作品を紹介したりなど、情報量は増え続けて、3年前にはオフィス ブルースカイの内藤さんの協力を得て「ちいでんFORUM 」も作りました。しかし、時代の変化は驚くほど速く、いったいぜんたい、どこを向いているのかよくわからないwebサイトになっていったことは事実だと思っています。方向がよくわからないのは、webサイトの作り方とかという以前の話でして、自分自身が何をやろうとしているのかよくわかっていなかったからでしょう。

だから今でも本当にわかったといえるのかどうかは心もとないところではありますが、今、トップページにも記載した通り。方針を決めました。

パノラマVR、オブジェクトVR、立体写真、高解像度マクロ・・ 

特殊写真と応用技術で、世のため人のために尽くします

これまでにやってきたことを見直すと360度パノラマに限っているわけではありませんから、タイトル(ロゴ)から「パノラマ」を取りました。バーチャルリアリティを意味するVRは、今流行りの最先端とは違って古式ゆかしい技術を専門に扱っていますが、考えてみれば「写真」はその誕生からVRの代名詞みたいなものだったはずだ、ということで残しました。

パノラマVR、オブジェクトVR、立体写真、高解像度マクロ・・・・それぞれのテーマに対して、偉大なる先人がいて、ゴリゴリの専門家もいて、 追いつけ追い越せとばかり勢いづいている後進がいることは承知しています。しかし、それはそれとしてでも、これら以外のジャンルとの組み合わせと独自の発想力で、今までになかった何かを、これからの世のため人のために役立てようと決めました。

以前のロゴマークは、20歳代後半からお付き合いのあるイラストレーターの小絵さんが作ってくださったのです。7年くらい前、しばらくお会いしていないなぁ、と思っていた矢先、海外から彼女の訃報が届きまして、新しく作り直すこともできず「パノラマ」を外して色を変えました。

というわけで、「ちいでんVR」、再始動いたします。今のところ、コンテンツは空っぽの状態の当webサイトですが、新旧折り合わせながら、さまざまな情報を発信していきます。なんかおもしろそうだね、とか。こんなことできないの? とか。こんなふうにやったらもっと上手くできるんじゃね? とか。ちょっと教えてくんない? とか。馬鹿馬鹿しくて口にするのも、ましてや文章にするのも憚られそうな、そんな些細なことこそ反応をいただけるとうれしいです。

基本的に、お金にはならなくても面白そうなこと、誰もやらなさそうなこと、に血道を上げていく所存ですので、今後ともご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

2022年4月1日

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