パノラマミラーの仕組みについてはコチラにざっくりしたところを整理しています。
基本的な考え方はそれなりかと思うのですがいかがでしょう。

さて、この度、映蔵さんからのご協力を得ることができ、パノラマミラーを実際に使ってみる機会に恵まれました。

レンズのセット、ソフトウェアの使い方など、紹介すべきことはたくさんあるのですが、その前に、パノラマミラーのピント合わせについて驚くべき意外な事実を整理しておきます。
通常の光学レンズとは全く異なる性質があり、これを知っておくことは、パノラマミラーを使う上でかなり重要なことだと思います。
いや、とにかくびっくりする事実からのスタートです・・・。

1.とりあえず撮ってみたら・・・何だこれ? な事実が

細かな話は後。
パノラマミラーをセットして、マスターレンズのピント位置は最短撮影距離の25センチ。写真の赤矢印の位置に合わせて撮影しました。
ピント位置を確認したいので、被写界深度が浅くなるよう絞りは開放(F2)にしています。
まずは、その様子から。

(実際にパノラマミラーで撮影する時は、絞りをできるだけ絞って被写界深度を稼ぐ、のが基本です。しかしその前に、どこにピントが合っているのか? を検証しておきます。このことで、より合理的なピント合わせが可能になるはずです。)

パノラマミラー
▲パノラマミラー(映蔵wide70)のセット。


パノラマミラー
▲撮影結果。

パノラマミラー
▲拡大してみると、ピントが合う範囲がヘンです・・・。

パノラマミラー
▲円周方向にだけピントが合っています。「距離」はほとんど関係ないみたい。

パノラマミラー
▲つまり、ピントが合っているのは緑の位置の「全部」です。「距離」は関係ない?

2.理屈を考えてみました(ここから訂正)

なぜ、「距離」ではなく円周方向の全てにピントが合っているのでしょう?
この理屈を考えるために、光路図を描いてみます。手描きですのでどこまで正しいのかはわかりませんが、ポイントだけは押さえるつもりで・・。

パノラマミラー
▲パノラマミラーのピントはどこに合うか?

まず無限遠からの光を考えます。ミラーに入射する光の角度によって、ピントの合う位置が変わります。
1)ミラーの焦点は「f」ですから、真下からの光はfに虚像の焦点を結びます。
2)下方向からの光は、緑の破線が交わるところに虚像の焦点を結びます。
3)水平からの光は、橙の破線が交わるところで虚像の焦点を結びます。
4)上方向からの光は、青の破線が交わるところに虚像の焦点を結びます。
こうして、無限遠の虚像の焦点位置をつないでいくと、だいたい赤腺のようになります。

さてここでもう一つ大切なこと。
ミラーの鏡面自体は、ピントの最も近い位置(最短撮影距離)になります。
つまり、パノラマミラーは、その鏡面が最短撮影距離となり、無限遠の赤線までの間に、マスターレンズのピント面を合わせることで、ピントを合わせることができる、わけです。

ここまではなんとなくわかる理屈で、遠い被写体と近い被写体で、マスターレンズのピントを合わせれば良い、ような直感が働きます。しかし、上で見た現実は、それを真っ向から否定するようなピント位置になっているのです。
さて、どういうことか?

3.エキサイティングな理屈へ

頭が結構こんがらがってきますので、少しずつ。

パノラマミラー
▲パノラマミラーのピント面を考える。

通常の写真レンズは、ピント面がレンズ光軸に直交しています。
図には、マスターレンズのピント面をピンク色の線で描いています。とりあえず考えやすいように、パノラマミラーの焦点の位置(水平線が写る位置)に合わせています。

この状態で、「パノラマミラーのピント面」がどこにあるか? を探してみます。

1)最短撮影距離(ピンクのP)
マスターレンズのピント面はピンクの位置ですから、パノラマミラーの鏡面のピンクのPの位置にピントが合います。この部分のパノラマミラーのホコリや傷、ゴミは、確実にピントばっちりで写るわけです。
この時点では、水平方向の無限遠の被写体はピンボケで写ります。なぜなら、マスターレンズのピント位置がピンクの位置にあるからです。(なかなか理解しにくいです。)

2)どこにピントが合うのか?
緑や黄色の線をよくよく見ながら考えます。
それぞれの角度の光は、鏡面の内側に焦点を結びます。もちろん、無限遠は赤線の上になります。つまり、鏡面~赤線までの、それぞれの色の線の上に、実物の最短撮影距離~無限遠までのピント位置が「変換」されることになります。
ここで、マスターレンズのピント位置は、ピンクの線上ですから、緑と黄色のPの位置に(虚の)ピントが合います。この点は、実物側の右下側のPに(実の)ピントとして合うことになります。

3)パノラマミラーのピント面は?
マスターレンズのピント面のうち、パノラマミラーの内部に当たる部分には、実物がありませんから(虚の)ピント面という具合に考えてよいでしょう。この(虚の)ピント面に、パノラマミラーの鏡面によって焦点が結ぶ実物の位置に、(実)のピント面ができることになります。これを茶色の線で示しました。
このパノラマミラーのピント面(勝手に合成ピント面と名付けました)は、ピンクのPを起点とし、下方向に伸びる円錐型の面になるはずです。直線(面)なのか曲線(面)なのか? はわかりません。

しかしここまで来ると、私自身が実験台となっている最初にお見せした作例写真のピント位置が理解できます。

パノラマミラー
▲よくよく見ると、手先(赤)、顔(黄)、パソコン(緑)と、ピント位置の半径が変わっているようにも見えます。とすれば、この考え方はそれなりに妥当、ということでしょうか。

4.さまざまな向きからの光を考えます

では、水平方向や上方向の被写体では、どのようにピントが合うのでしょう。

パノラマミラー
▲水平方向全てにピントが合う位置
左図のような位置に、マスターレンズのピント面がある場合は、合成ピント面が水平後方を向きます。水平方向の被写体なら、鏡面から無限遠まで全てにピントが合うことになります。摩訶不思議。

パノラマミラー
▲上方向は?
図3よりもマスターレンズのピント面を奥にすると、合成ピント面も上を向きます。ただ、鏡面での光の反射方向よりは下向きです。

パノラマミラー
▲真下は?
現実にはカメラがあって撮影不可能なのですが、最短撮影距離から無限遠までのピント面と光軸が重なる、奇妙なことになります。
ただ、パノラマミラーの最・最短撮影距離は、鏡面の頂点になります。

パノラマミラー
▲無限遠は?
双曲線の端は「漸近線」といい、無限遠へ伸びた線と重なることになります。これも現実には作成不可能ですが、近似的にはパノラマミラーの端はマスターレンズの「無限遠」のピントと重なります。

3.つまりこういうこと

●基本のキ
パノラマミラーを使った撮影では、マスターレンズのピントを、パノラマミラーの焦点(f)のほんの少し奥に合わせるのが基本になります。これにより、水平方向の近い被写体から遠い被写体まで全てにピントが合います。

●上方向に重要な被写体がある場合
パノラマミラーに収まる範囲で、より遠くにマスターレンズのピントを合わせることで、上方向にピント面が傾きます。これにより、上方向をシャープに写せます。

●下方向に重要な被写体がある場合
パノラマミラーの手前(頂点を超えない範囲)にマスターレンズのピントを合わせることで、下方向にピント面が傾きます。これにより、下方向をシャープに写せます。

●絞りを絞ると・・・
絞りを絞ることで、下方向から上方向まで、ピントが合うようになります。パノラマミラーからの被写体の距離は、ピント合わせにはほとんど関係ない、と考えたほうがわかりやすいです。光学レンズに慣れた感覚からすると、とてもヘンな性質と言えます。つまり、パノラマミラーの被写界深度は、距離ではなく、角度の広さとなって現れます。

普通の感覚でいうとヘンなのですが、同じ角度にある被写体はその距離に関わらずシャープに写る、という性質を上手く活用するとパノラマミラーの特徴がよりよく活かせることになります。

いやはや、本当に意外・・・・。まだ信じられません・・・・。間違っていたら、どなたか教えてください。

パノラマミラー
▲パノラマミラー本体は直径10センチもありません。ですから現実的に考えると、この大きさはほとんど無視してよいレベルになります。

よって、マスターレンズのピント位置で、ピントが合う「角度」が決まり、絞りを絞ることで、ピントが合う「画角」を広げられます。被写界深度は「距離」ではなく「角度」になって現れる。これが、パノラマミラーの摩訶不思議な性質のようです。

●結論自体は、ほとんど変わりません(負け惜しみ)。ですが、ここに至る考え方は、ひどく間違っていました。(15日訂正)

追記・・・・・・・
後日、パノラマミラーにも詳しい「奈良先端科学技術大学院大学」の山澤先生に、当ページを見ていただくことができました。(サイトが文字化けする場合は、ブラウザの文字エンコーディングを「unicode(UTF-8)」に変更するとよいです。)
パノラマミラーを側面から見た(だけ)の場合は、上の考え方で間違ってはいないようです。ただ、パノラマミラーではミラーの頂点から底辺に至るまでの曲率と、水平方向の円周の曲率が異なるために、上方向から見ると、別の性質が顔を出してくるとのことです。
それは、「非点収差」「球面収差」となって現れ、単純には焦点が正しく一点にならないことを意味しています。
ここまでくると、私の頭では理解不能になってきますが、次回の記事(パノラマミラーで高画質に撮るには?)ではこれが現実のイメージの違いとして現れてきます。

いやあ、面白い~。

・・・・・今回はここまで。